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特別インタビュー 慶応大経済学部・金子勝教授

経営・過失責任問え 原発ゼロの道 国民的議論で

金子勝教授

 日本の原子力発電所は泊原発が定期点検に入ったことですべて停止しましたが、政府は夏までの再稼動へ動きを強めています。原発ゼロの実現や、再生可能エネルギーの普及に向けた課題について、慶應義塾大学経済学部教授の金子勝さんに聞きました。(聞き手・渡辺淳子 写真・田沼洋一)


―政府はどうしても原発を再稼動させたいと躍起になっています。
 すべての原発が本当に5月5日に止まって、原発ゼロで今年の夏を乗り切れるとなったら、ゼロベースの見直しになってしまう。それを絶対に避けたいというのが、この間の政府の動きです。
 現実に起きていることは実は、エネルギー問題ではなく、電力会社の経営問題なのです。
 原発は安全性が担保できないから動かせない。動かせないと、とたんに不良債権になってしまう。そのために電力会社が非常に経営状態が苦しくなって、電力料金を無茶してあげようとしたり、原発を無理矢理に再稼動させようとしたりしているという構図です。

―電力料金値上げには批判が広がっています。
 「燃料費が上がったから、電力料金を上げなければならない」というのはうそです。
 電気料金には、燃料調整額という費目があり、3カ月ごとに燃料費の上昇分が、ほぼ自動的に電気料金に上乗せされています。使用量によりますが、昨年1年間で一世帯当たり600円から1000円くらい上乗せされているはずです。
 東京電力で言えば、昨年度の第3四半期まで(4〜12月)の燃料費の上昇分が2580億円。燃料調整額の上乗せ分が2330億円ですから、ほぼカバーされているのです。
 また、「原発が止まったために3500億円損失が出ている」と言いますが、これは「燃料費の増加分」ではありません。
 もともと経営計画を立てる時に、原発のコストを意図的に低く、火力を高く設定してきたつけで、火力に置き換えると、運転費が増加したということです。
 しかも、原発は止めているだけで多額の借金返済費用と維持費用がかかるのです。

許されない破綻先送り

―原発ゼロに向かうには何が必要でしょうか。
 原発は一度事故が起きたら、人の命や子どもの未来を奪うとはっきりしたのですから、倫理的にはやめるべきです。問題は、巨大な利権集団をどう解体するのかです。
 まず、経営責任、過失責任を厳しく問うこと。第2に事故処理費用、賠償費用、除染費用を最大限に捻出すること。第3に将来の電力改革に結び付けていくことです。
 勝俣恒久東電会長も、斑目春樹原子力安全委員長も、誰も辞めていないじゃないですか。東電は実質上もう破綻しているのに、うそやでたらめを流しながら、破綻処理を先送りしています。
 事故処理費用は、原子力委員会は1兆2000億円と見ていますが、とてもそんなものでは終わらないでしょう。賠償費用は今のところ5兆円とされ、今までに3回で計2兆4000億円を期末決算のたびに支援機構に申請し、それを未収金という架空の資産を計上することで、債務超過をごまかしている状態です。
 後の世代につけを全部まわしての逃げ切りを許さず、経営責任も過失者責任もしっかり果たさせることがまず必要です。この問題が6月の東電や関電の株主総会で問われます。

―国の総合資源エネルギー調査会の基本問題委員会で、委員をされています。
 6〜7月がエネルギー基本計画を決める山場になりますが、提出されている選択肢がひどい。
 2030年時点での総発電量に占める原発の比率を35%、25%、20%、0%の4案としています。真ん中の20%に、となりやすい訳です。
 原発の比率はこれまでが26%なんです。20%というのは、原発を9基新規建設するか、かなりの老朽原発を動かし続けるということになります。福島原発の事故を何も踏まえず、政府の「脱原発依存」も無視する数字です。
 新規建設をせず、40年廃炉の原則を貫くだけで、2030年末には18基しか残らない。依存度は12〜13%になります。さらに、浜岡、柏崎刈羽、福島の10基など、特に危ない原発を動かさなければ、それだけで半分以下になるんです。20%がいかにあり得ないかということです。

電力改革が岐路に

―原発を本当のゼロにしていく道筋をどう考えていますか。
 国民は圧倒的多数が、ただちに、あるいはやがて、原発はゼロにと思っているわけで、本当の争点は、多額の税金を入れても、原発を一気にゼロにするか、それとも原発を精査してゆっくりゼロにしていくかというところにあります。
 少しずつ原発を減らしていきながら再生エネルギーに変えていくという道は、より国民負担は少ない道ですが、そのためには、新しい原子力規制庁と原子力安全委員会の独立性を高くするだけでなく、利害関係者と利益相反にあたる人を全部排除すること、福島の事故の検証を踏まえて、非常に高い安全基準を設け、きちんとチェックすることなどが当然必要です。
 原子力予算を組み替えながら、足りない分は国民が税金で負うという覚悟をもって一気にゼロにする道もあります。
 どちらにしろきれいなストーリーはないんです。そういうぎりぎりの議論が本当は必要なのに、経営者の逃げ切りシナリオばかりが進行しているわけです。

―再生可能エネルギーについて、経済成長の鍵だとの著書も出されています。
 再生可能エネルギー法(再エネ法)に向けても、こうした「原子力ムラ」とそれ以外との激しいせめぎあいが繰り広げられています。量産するとコストが下がるのですが、初期段階では、再生可能エネルギーの買取価格を一定きちんと確保することが、普及にとって不可欠です。
 将来的にはスマートグリッドと呼ばれる蓄電池でためて、ITで送配電網をコントロールし、小規模分散型でも効率的にコントロールできる仕組みにすることで、自立した地域がネットワークで結びつく地域分散型の新しい経済社会も展望できます。
 ですから、経済の行き詰まりを打破する上で、電力改革、再エネ法は非常に重要です。ここを間違うと日本は失われた30年、40年になってしまう、ここで頑張れば日本が再生していくのです。

 

(東京民報2012年5月13日号に掲載)